白と黒のはざま

2020.07.20

 小康状態のコロナ禍で少しずつメディアでのスポーツの露出が増えてきました。口火を切ったのはプロ野球のNPBです。無観客とはいえ、テレビ放送もあり、待ちくたびれていたファンを喜ばせています。およそ3か月遅れの開幕であり、例年よりも24試合少ない120試合で行うとのことです。三密回避で全てがイレギュラーな状況ですが、精いっぱいの対応だと感じます。無観客試合のため、テレビ中継を見ていても何かしら居心地の悪さを覚えるのは、やはり経験したことがない状況であるからかもしれません。ファールボールやホームランで無人の客席にボールが落ちた時の音は、誠にリアルです。ガシャーン、バーン、ドンッとリアルに大きい音が伝わってきます。それにしても観客のいないスタンドは、これほど殺風景なものだったのですね。でも、よくよく思い返すと一昔前のパリーグの試合は、無人とまではいきませんが、1塁側と3塁側のヤジがリアルに聞こえるぐらい観客が少なかったのです。今は、なんばパークスという商業施設に変わってしまった大阪球場は、南海ホークスの本拠地だったのですが、すり鉢のような構造の球場で、観客同士の距離が極めて近かったため、普通は聞き流すヤジに対して、聞こえるがために、また、その人物が特定できるが故に、やじり返すという現象が日常茶飯事になっていました。そして、ヤジだけでは済まず、常に小競り合いが起こっていたのです。それは、必ずしも善い行いとは言い難いのでありますが、ある意味、三密でもなく、自粛でもないおおらかな時代だった産物なのかもしれません。もう少しコロナの脅威が収まれば観客を入れて試合を行うとのことですが、席を離して行うにしてもヤジや歓声にはどのように対処するのでしょうか。試合観戦してここぞの時は、自然と大きな声が出るのではないでしょうか。「やったー!」とか「いけー!」とか落胆の「あ“あ”あ“―――」とか、自然に出てしまうと思うのですが。さて、どのような展開になりますことやら。

 自粛解除以降、世の中はスポーツの世界以外も少しずつ動き始めました。飲食店もそれぞれが工夫を凝らし、フィジカルディスタンスを保ちながら営業を再開しています。元に戻るのは全く読めない状況ではありますが、黙っていても何も改善しないことが身に染みて分かるからこそ、藁にもすがる思いで全ての店主が再開の第一歩を踏み出したのです。大抵の店舗は家賃を払って営業しています。だから、店を閉めていても家賃は毎月払わなければなりません。1円の売り上げも無いのに家賃を払うことは、まさに死活問題なのです。一刻も早く再開したい、少しでも売り上げを上げたい、そう思いながら、政府が半ば暗黙の強制で自粛要請したことは、大きなダメージになったことは間違いありません。そんな環境で知り合いの寿司屋の店主は、店は開けることができませんでしたが、和風弁当を作って、それを常連のお客さん向けに宅配をしていました。それまで宅配など全く経験が無いのに実行に移したのです。作るのは当然職人ですからお手の物です。しかし、どうして配達するのか。作るのは作っても配達スタッフがいるはずもなく、今はやりのウーバーイーツでも使うのかと思っていましたが、この大将、タクシーに配達を依頼したのです。本来、タクシーは、旅客自動車運送事業なるものの制約で、人しか乗せることができないのにどうして、と思っていたのですが、実はこの時、国の特例措置で時限的に宅配荷物を運んでもよいことになっていたのです。何という情報収集能力とアイデアと実行力なのでしょうか。この大将だけではなく、世の中のすべての事業主は必至の努力を今も重ねていると思います。この先、国が拠出した資金は、いずれ私たちの税金として回収されます。給付金で一時は喜んでも、必ず、また税金を払うことでわが身に降りかかってきます。コロナウィルスに危険はあっても野望はありませんが、人間には危険も野望も同居しているのです。さて、あなたにとってはどっちが恐ろしいでしょうか。